涙の終りに ~my first love~
女神の気まぐれ
慌てて辺りを見渡したが彼女の姿はどこにもなく、途方にくれたオレは真子が座っていた同じベンチに座り頭を抱えると、それは僅か数時間前の彼女と同じ光景だと思った。

誰もいない公園のベンチに座っていると、罪悪感と一人の孤独に襲われ気が狂いそうになり、何かを振り切るように立ち上がったオレは隅にある公衆電話へと向かい、真子へのダイヤルを廻した。

「親が出たらどうする・・・ 不在だったどうする・・・」

そんな思いはカケラもなかった。
呼び出しのベルが鳴り、受話器を取ったのは妹だった。
オレは自分の名を名乗り、丁寧に電話口まで姉である真子を呼んでくれるように頼んだ。
だがいくら待っても真子は出てくれず、目を閉じて

「頼むから電話に出てくれ」

と祈るオレに保留のメロディだけが無情に繰り返されるだけだった。
受話器を握り締めたまま
「三時間も持たせたんだ、このまま切られてしまうのかな」と諦めかけた頃、
突然メロディが途切れ数秒の空白の後、「はい・・・」と懐かしい声が聞こえた。

それはとても短い言葉だけど、涙を抑えているのが電話口からでもはっきり読み取れた。

「真子・・・ ゴメン・・・」

とだけ搾り出すように呟やくと、手紙を読まなかった事、バンドの練習の帰りに真子を偶然見つけた事、そして今公園の公衆電話にいる事とすべてを打ち明けた。
胸につかえていたものを吐き出してしまうとお互いに気まずい沈黙が続き、
テレフォンカードの残りも少なくなっていた。
沈黙を破ったのは彼女の方で

「私達、もう一度やり直せるかな・・・」

とポツリと問いかけ愛しい絆を振りほどいたその手が、またオレの心の中に愛の灯をともそうとしていた。
「3・・・ 2・・・」とカウントされてゆく赤いデジタルの数字にオレは答えを急がされている気持ちになり思わず、

「今度こそよろしく頼むな・・・」

と返してしまった。この言葉を言ってしまった後で、本心なのかその場しのぎなのか自分でも分からなかった。

ただはっきりしていたのは、あの局面で受話器を持ったまま
「それとこれは別の問題だ」なんて言えるほど強くもなかった。


< 32 / 105 >

この作品をシェア

pagetop