涙の終りに ~my first love~
命と魂
オレは有澤の話しを聞いた後、ひと呼吸置いて聖子とつき合っていた事を打ち明けた。
するとさすがに勝史も有澤も驚いた様子で、
有澤は「ユウジ、二股かけてたの?」と聞いてきた。

有澤が疑うのも無理はない。
メンバーからすればオレは真子に振り回され続けてるだけのつまらない男で関心もない。

なのに聖子とつき合ったなんて寝耳に水で、単純にその期間だけが疑問として残る。

「二股は掛けてない、聖子とはオレの方から声を掛けてオレが振った」

と短く答えると、メンバーはそれだけで真子と離れていた僅かな期間だけつき合っていたのかと解釈していた。
でもそれは受け取り方によっては「真子と別れた空白の暇つぶし」にも取れる。

するとメンバーの大森がZippoを指で回しながら
「最低だな!」と吐き捨てるように言った。

オレはその言葉に返す言葉が無かった。
本当はただ振っただけじゃなく、文通で最悪な別れ方をしている。
それを言ってしまえば大森が言った”最低”の言葉はそれだけでは済まない事を知っていた。

この日はオレのせいでその後にカラオケにも行かず解散となった。

別れ際に大森がオレに言い過ぎたと思ったのか
「亡くなったのはユウジのせいじゃない、考え込むなよ」と言葉をかけてくれた。

家に帰ってからも聖子の死が受け入れられず、肌の温もりや甘いリンスの香りそのすべてが、すでにこの世に存在しないなんて信じられなかった。
オレにとって身近な人の死はこの時が始めてだった。
しかもそれが元カノでこの部屋にだって来た事がある。

今まで人間の死について真面目に考えた事などなかった。

考える以前に普通に生きて呼吸をし生活している事が当たり前で、
自分が老いてお年寄りと呼ばれる時が来る事さえ想像もしていない。

死とは遠く人生の河の果てで待っている遥か先のこと。

そして死んでしまうと人間ってどうなるのだろう・・・ 
生命は消滅しても魂はカタチを変えて目に見えなくなるだけだろうか。

そう思うとオレは有澤に肝心な事を聞いていない事に気付いた。
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