涙の終りに ~my first love~
凶器とパフォーマンス
オレはこの時に止めた事を冗談ながらも今だに言われ続けている。
そして進一がこの件を口にするとオレは決まって
「オレが止めなかったらマジで殺すつもりやったんか?」と言うと、
必ずあいつは「いや、あれはただのパフォーマンス」話す。

オレは今もってその”パフォーマンス”の意味が分からずにいる。

不機嫌な進一は何も言わずにオレの前を通り過ぎると、運転席のドアを開け木刀をしまい込んでいた。
やがて勝史達も現れ紫色に光り輝く車の前で輪になって立ち話しを始めたが、
不機嫌な進一はそのまま運転席に座り込むと、真っ直ぐ正面を見つめたままこちらに来ようともしなかった。
オレが退場した後の式の様子などを話した後、何気なく勝史に
「一緒に何か食べに行こう」と後部席を指差すと、
勝史は進一タイプの人間が苦手ならしく、黙って眉間にシワを寄せ首を横に振っていた。

「じゃまたな」と軽いノリで別れた後は、
ホイルスピンとマフラーの爆音を会場いっぱいに響かせて街に繰り出た。

BGMは二人のお気に入りのブラックキャッツ。

派手さという面でも文句無しに目立つ車で、気分最高と言いたいところだけど、
晴天とはいえ一月のこの季節にオープンカーは半端じゃなく寒く、
身も心も凍えそうだった。

そしてオレにはこの夜の記憶が残っていない。
進一の話しじゃ浴びるように酒を飲んだオレは訳の分からぬ事ばかり口走って手がつけられなかったらしく、
アルコールを受け付けない身体の進一の前で酔いつぶれ、
奴がオレを家まで送ってくれたらしかった。

心当たりと言えば真子に逢うという一番の目的が叶わなかったので、
多少の憂さ晴らしはあったと思う。

だけど進一が基準とする”手がつけられない”のレベルがどの程度のものなのかオレには想像できないが、
トランクの中の凶器を使わせなかった恨みも込めて、

奴が話を大きく膨らましてして大げさに言っているだけだとオレは信じている。
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