【短】きみに溺れる


今さら何をしに……とか

顔を見たらダメになる……とか

そんなこと、考えられなかった。


気がつけば私は玄関まで走り、無我夢中で、鍵を開けていた。


「レン……っ」


開いたドアから身を切るような冷たい風が吹き込む。


バスタオル一枚の私に、レンは一瞬おどろいた表情をしたけれど、すぐに微笑みに変わった。



「マーヤ、風邪ひくよ。抱きしめてあげたいけど、外から来たばかりで俺も冷えてるから――」


言い終わる前に、私の方から胸に飛び込んだ。

冷たくなった彼のコートが、火照った肌に触れた。



子どものように泣く私を、レンは抱き上げ、部屋まで運んでくれた。


深夜の1時を過ぎた時計が、目に入る。


ベッドに寝かされ、優しく髪をなでられながら、彼にたずねた。


「こんな時間に……大丈夫だったの?」

「うん。俺だけ一日早く戻って来たんだ」


言葉の意味がわからず黙っていると、レンはあきれたように笑った。


「その様子じゃ、新年が明けたことも忘れてただろ」


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