one contract
「‥‥」
「何で知っているんだ?って顔、してるなぁ」
「‥‥」
「おれも一族だから。お前と、なんだっけぇ?コー?だっけかな」

一族全員が吸血鬼なわけではない。
でも、もしコイツも吸血鬼なら、吸血鬼の事を知っていてもおかしくはないから‥‥

「要するに、黝も吸血鬼だって事でしょう?」
「そ」

今頃知った。
親戚のヤツが同じ吸血鬼という事。
皆がみんな、吸血鬼ってわけじゃないから‥
まぁ、それはどうだっていい。

「で?黝は僕に何の用なわけ?」

こんな事を伝える為に、わざわざ僕の前に来たわけじゃないでしょう?
そう言って黝を見れば、黝はニタリと笑みを深めた。

「かいちょーサン、知っているよな?“特別”なヒトの事」

“特別”なヒト‥か。
知っているよ。と返せば、ククッと低く笑う。

「なんだっけ?“桃”か?アイツはコーってぇヤツの専用だから手は出せない」
「‥‥専用?」

専用って何?
どういう事?
先輩しか桃の血は吸えないって事?



‥‥そんな事、出来るのか?



‥てか、人の名前覚えるの、出来るじゃん‥‥。

「“桃”はコーのモノ。“菫”はまだ、誰のモノでもないなぁ?」
「‥‥そう、だね」

そう返した僕に少し驚いた顔をして、下から僕を刺す様な視線で覗き込んでくる黝の黒い瞳。
その瞳に映った僕が、少し悲しそうに見えたのは‥‥

気のせい、かな。

「じゃあアイツ、おれが貰っても良いよな?」
「‥スミレの事かな?」
「そ、良いだろ?だってお前、最近触れていないし、避けてるだろ?」

だったら、手ぇ出しても良いよな?
この言葉は鋭い刃の様に、僕の心に鈍い音を立てて刺さった。
黝はまたニタリと不気味に笑って、人差し指を心臓がある方の僕の胸に強く当ててきた。

「本当に、貰うよ?」

その人差し指はトンッと軽く弾みを付けて離れていく。
僕に背を向けて歩き出した黝の姿は、黒い服を着ていたせいか、すぐに闇の中へと消え去っていった。


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