『花、愛でる人』
心が和らぐ

夏葵の大学の図書館に、花言葉の本を返しに来たわたしに、



「……何ニヤニヤしてんだよ、気持ち悪い」


「うるさいなぁ」



門の前まで送ってくれた夏葵が、怪訝そうに顔を覗き込んだ。



唇を尖らして言い返したものの、頬の緩みは隠せない。




「今日は、口実とか作らないで行ってみようって思って……花屋さん」



にっと笑ってみせたわたしに、呆れたように顔をしかめて鼻を力一杯つまみ上げた。



「痛ッ!!」


「バカ面だな。いつにも増して」



ポイッと雑に指を離した夏葵は、自分のせいで真っ赤になった鼻を指差してニヤリと笑う。




「バカ面じゃないもんっ。キラースマイル」




こう言ってもう一度にっと笑ってみせたわたしを一瞥。
挙げ句、あからさまに溜め息をついた。




「まぁ、せいぜい当たって砕けてこいっ」



軽くあしらいながら夏葵は、わたしの制服の襟とネクタイを直していく。



お兄ちゃんどころか……お母さんみたい。




「砕けないよっ! 夏葵のバカ」



「制服一つまともに着られない奴に言われたくねぇし」
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