主人とネコ(仮)



ネグリジェが、少女の桃色の髪が、風に靡く。光は屑となり、紺碧の空に消えていく。
傍(はた)から見れば、それはとても美しいものだろう。

数十体の魔物は灰となり、風に流される。

「ほう。人間なのに、魔法が使えるのか」

どこか楽しげな声が森の中からした。
息を上がらせながら、少女は声のする方を睨みつける。

「……出てきなさいよ」

地面に残った灰の残りを踏みながら、その者はやって来る。
彼女は必死に目を凝らし、その姿を見るが、視界がぼやけているせいでうまく見えない。

月明かりに照らされる漆黒の髪。体格からして、男だろう。
唯一わかったのは、それだけだった。

人間でも悪魔でもない、その男。

「いいものを見つけた」

「……っ」

苛立つその言葉。そして少女は既に気づいている。この男は、危険だと。

魔法でもう一度……。

そう思っていても、体はついていけない。今立っているのでさえやっとだ。

ダメ……。

薄れていく意識。抜けていく力。
ふらりと少女は倒れる。漆黒の髪をした男が、彼女を受け止めた。

にやりと笑うその男。強い風が、草木を揺らし、ざわざわと音を立てた。

「お前はもう俺のものだ」

湖と草木が再び静寂さに包まれたときは、既に二人の姿は消えていた。




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