FAKE‐LAKE


「御呼びですか、フロスト博士」
 ロスタナに戻ったシアナはすぐに博士に呼び出された。
「ああ、お前に頼みたい事があってな」
 博士はにこやかに笑いかけた。今日はご機嫌だな、とシアナは心の中で呟く。
「お前、以前医者だっただろう」
「……はい」
 冷たい表情を崩さないシアナの声が少しだけ揺れた。
「かなり優秀な医者だったと聞いている。それに冷静沈着で仕事に私情を挟まないと見た」
「それで用件は何でしょう」
 シアナは遠回しな博士の説明に眉をしかめて結論を求める。
「お前は気が短いな」
 博士は別段気を悪くした様子もなく、話を続けた。
「お前にRの体調管理を頼みたい。昨日から兵器としての躾を始めた。ぎりぎりまで追い詰めるが死なれたら困る。それで、最低限の体力を保つよう管理して欲しいのだ」
「わかりました」
 シアナは無表情で頷く。
「兵達も奴には遊ばれて手を焼いていたからな。かなり手荒な躾になるだろう。鞭打ちで済むかどうか」
「関心ありませんね。私は言われた仕事を果たすだけですから」
 どこまでも冷淡なシアナの反応に、博士は一つ息を吐いた。
「お前も変わったな。以前は」
「用件は以上ですか」
 鋭いシアナの声が続く博士の言葉を封じ込める。深い青色をした瞳が冷たく光った。
「失礼します」
 部屋を出ていくシアナの後姿に、博士は再び溜息をついた。
「わからん奴だ」


 シアナは押し入れの奥にしまい込んでいた医療道具の入った鞄を取り出した。
「……二度と見たくなかった」
 ぽつりと呟く。
「仕事なんだ、仕方ないさ」
 目をつぶり、自分に言い聞かせるように繰り返した。必要と思われる薬品を揃え、シアナはレイが監禁されている牢へと向かう。
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