FAKE‐LAKE
 口が無いわけじゃないだろうに。
 戸棚に手際よく食材をしまいながら、ニールはふうと溜息を一つこぼした。
 街に住んでいるニールは、毎週アンジェの家に届け物をしている。いわゆる配達屋だ。
 薬と一週間分の食材。時々スケッチブックや色鉛筆等の画材も頼まれる。
 週一の配達。そのたびに陽気な性格のニールは明るく声をかけてみるのだが、アンジェは滅多に喋らない。質問にも頷くか首を振るかで答える。
 最初は言葉を話せないのかと思ったが、どうもそういう訳ではなさそうだ。
 綺麗な顔立ちをしている割に表情にあまり変化がなく、かと言って無表情なわけでもない。
 つまりはアンジェがどんな性格で何を考えているか、ニールには全くわからないのだ。

 ニールが食材をしまい終わるころ、アンジェはソファに座りスケッチブックを開いて見ていた。
 キャラメル色のさらさらした髪。長い睫毛に隠れがちな、マロンブラウンの瞳。
 病気なんだろうなと分かる細い体と、年齢にそぐわない大きな手、長い指。
 親方の話では、アンジェは十五、六歳だという。確かに外見はそんな感じだ。
 しかし、静かすぎる。彼には少年らしい若さや快活さが無い。
 日なたでぼんやりとスケッチブックを開いて眺めているその姿には、まるで隠居した老人のような雰囲気がある。
 これは病気のせいなのか。それとももともとの性格がこうなのか……。
 ニールはアンジェの家に来る度に現れる疑問をぐいと脇へ押しやり、パン!と威勢よく手を叩いて立ち上がった。
< 3 / 556 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop