FAKE‐LAKE
「ったく、いちいち泥棒泥棒言うなよな」
冷蔵庫のある部屋――食堂にむかいながらアツキはぶつぶつ文句を言った。
完璧と言われるセキュリティをも難無くくぐり抜ける泥棒『シャドウ』。ちまたでアツキはそう呼ばれている。誰も姿を見たことが無く、忍び込んだ気配すら残さない。今までの成績は百戦百勝。
……だったのだが。
その連勝に黒星をつけたのは、近代的な国から見ると遺跡とも言えるこの屋敷だ。
セキュリティが全く無いこの屋敷で失敗したのは、忍び込んだ暗い部屋の床に空いていた穴に足を取られたあげく、無造作に積み上げられた本の山に背後から襲われたためだ。
「油断したんだろ」
やたら広い壊れかけの屋敷に一人で住んでいるという端正な顔立ちの青年は、脚を折って動けなくなったアツキの手当てをし、泥棒と知りながら警察に突き出す事もせず屋敷に居候させるという、変わった人間だった。
「訳わかんない奴だよな、セティって」
食堂の窓枠に座り、外に見える湖を眺めながらアツキはオレンジジュースをラッパ飲みした。
小高い位置にあるこの洋館からは、湖に沿って広がる国ロスタナの主要都市ウェルズ全体を見下ろせる。湖と向こう側半分の山はリアレスクの土地。湖の東側から小さな山々が二国を分けるように並び、国境となっている。
リアレスクと違い、ロスタナは先進国だ。公共施設、学校、道路は完備され、科学技術も世界で一、二を争う程発達している。
隣り合う国でありながら二国の水準にかなり差があるのは、ロスタナは様々な資源に恵まれているだけでなく“開発”という言葉を極端に嫌うリアレスクと違って早くから経済が発展した為だろう。他国から職を求めて移住してくる人も多く、外国人に寛容で治安が良い国と言われている。
「……その裏で犠牲になった人間もいるけどな」
アツキは苦々しく呟き、空になったジュースのパックをごみ箱に投げ込んだ。