FAKE‐LAKE
◇ ◇ ◇
「最近は調子が良いようだね」
月に一度の診察を終え、医師はアンジェに微笑んだ。
「……自分ではあまり分からないです」
アンジェはゆっくり体を起こしながら答える。本当に自分では違いが分からない。
「顔色も良いし……少し背も伸びたかな」
そのうち君に追い越されるかもしれない、と笑う彼はかなりの長身だ。追い越すなんてありえない、とアンジェは思う。
ああ、僕もそのうちレイに追い越されたりして。
アンジェは自分より背が高くなったレイを想像してみた。なんだか可笑しくて、思わず口元が緩む。
「薬はいつも通り配達してもらうから。きちんと欠かさず飲んでいるよね?」
医師の問いに、はい、と頷く。シンプルな銀縁眼鏡の向こう、薄茶色の瞳がアンジェの表情一つ一つを静かに見つめていた。
「じゃあ、また一月後に」
医師は帰り支度をし、鞄を持って立ち上がる。これもいつもと同じ光景だ。
「あ、あの、」
アンジェは慌てて医師を呼び止めた。今日は絶対聞こうと決めていた。そう、自分は何の病気なのか。
……しかし。
「何だい? アンジェ」
振り返った医師の笑顔を見たら、あれだけ考えたはずの言葉が出てこなかった。
優しい笑顔なのに、目が笑っていない。考えている事を全て見透かされてしまいそうな視線。心の中を探るような眼差し。
急に怖くなり、アンジェは逃げるように目を逸らした。
「先生……は、お名前は、何て……?」
アンジェは咄嗟に質問を変えた。言葉使いが少し変だ、と屋根裏部屋にいたレイは首を傾げる。
「どうしたんだい? 急に」
医師は笑った。穏やかな笑い声。しかし、アンジェにはその表情を見る勇気はなかった。それ位、医師の目は鋭かった。