恋 理~renri~
大切な小さな手をキュッと握ると、駅から徒歩で会社へと向かった。
そうして亜実のペースで、いつもよりゆっくり自社ビルに到着すると。
「亜実、ここが私の働いている会社なの」
エントランス前で立ち止まってから、眼前のビルを見上げてそう話した。
「わぁー、大きいっ!
真咲ちゃんは、やっぱりすごいんだね!」
「アハハ、ありがとう」
目を丸くして叫ぶ亜実に、心がポカポカと温められていく感覚だった。
こうやって会社を眺める事など、入社当時以来だったから・・・
あの頃の私は、入社出来た事が何よりも嬉しかったのに…。
今はもう見向きもせずに、ただひたすらに目的地へと向かう単調な毎日で。
亜実の言葉で、自分が如何に純粋な気持ちを失くしていたか気付かされた…。
このままだと、アノ人のように冷たい人間になりそうだったね・・・
「よぉし、中に入ろっか?」
「うん!」
ううん、違う…、私はあんなヤツとは・・・
そんな思いを払拭するように、亜実の顔を覗き込んで裏口から入って行った。