恋 理~renri~
岐 路


大和のお家は、さながら武家屋敷といった様相で内心では委縮していた私。



日本庭園の優美さを味わう余裕もなく、眼前には立派すぎる玄関が構えていて。



不安が無いと言えば嘘になるけど、それでも2人の優しさが救いだったの・・・




「さぁ、入って!」


「お、お邪魔します…」


先に亜実を引き連れたお母さまに誘導されて、私は大和とともに和室へ通された。



住んでいるマンションは和室がないから、い草の香りを心地良く感じていると。



「わぁ、おさかなさんがいるー」


「ちょ、亜実…!」


部屋から臨む庭園の池で泳ぐ錦鯉を見つけ、駆け出そうとした亜実を窘めた。



「えー、おさかなさん」


「亜実ぃ、お願いだから…」


確かに、魚好きの亜実には魅力的な光景だろうけど…こちらは冷や汗モノだ。



私の勝手で連れて来ている事もあるし、2人の手前、強く注意も出来ずにいれば。



もの凄いタイミング良く、双方からクスクスと笑い声が漏れ始めた…。



「クック…真咲、百面相になってるぞ?」


「え!?」


「あー可笑しい!ホントに2人とも寛いでて良いからね?

すぐお父さんを呼んで来るわー」


まだ笑い続ける大和のせいで、恥ずかしさだけがより一層取り巻いている中で。



そんな私たちを優しい表情で笑うと、お母さまは超特急で和室から退出して行った。




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