LAST contract【吸血鬼物語最終章】



残っているんだ。
人を殴ったり、蹴ったり、切り付けた感覚が。

「‥葵」

先輩はいつの間にか僕の後ろに来ていた。
間近で見た先輩の胸の傷は、生々しいものだった。
時々光を反射した血が、鮮明に光る。
遠慮気味に掛けられた声は、いつもの先輩らしい荒々しい声ではなかった。

こんな声、先輩らしくないよ‥?

「‥先輩、‥ゴメンね」

そして先輩に謝る僕も‥、らしくない。

胸の傷から先輩の顔へと視線を移せば、複雑な表情の先輩と目が合った。
かと思えば‥―――





ゴンッ!!





落ちてきた。

ゲンコツが。

「イッた‥っ!!何すんの先輩!!」
「知るかっ」
「はぁ!?自分でやった事でしょ!?」

行き成りゴツンだもん。
対処出来ないし!!
‥‥真面目に痛いし。

「後5分間に合わなかったら、テメェ死んでたぞ」
「‥ぇ?」
「でも、ガキがお前の事思い出して、血を与えてくれたんだ」

だから、ガキにちゃんと感謝しろよ。

先輩はスミレを指さした。
それに釣られる様にスミレに視線を落とす。
急に愛しさが込み上げてくるのを感じて、僕はスミレを抱く手に力を込めた。

「はっ、『愛の力』ってやつか?タイミング良過ぎんだよ」

そうかもしれないかもね。
『愛の力』だからこそ、ピンチの時に出てきたのかも。

「‥謝るくれぇなら、褒めて欲しいくらいだぜ。被害をこれだけに抑えれたんだからな」

ぐしゃぐしゃと頭を乱暴に撫でられる。
ちょっと、これじゃあ髪の毛滅茶苦茶っ!!
と叫ぶ気にもなれず。

本当、今日の僕はらしくないかも。

「‥ありがとう、先輩」

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