夢のつづき。
■さな

◎朝

その日も、さなは起きがけにぐずり始めた。


朝の忙しい時間に小さな娘に泣かれるのは正直言って奈津子にはすこぶる面倒だった。


夫の康の朝食を作り、康が食べている間に次は康のお弁当の作成に取り掛かる。


短い時間で康の朝と昼を作らねばならないのだ。


いくら早起きしても時間が足らない。


その上、夫の康は食べ物に好き嫌いが多い。


単にピーマンが嫌いといった単純な好き嫌いではない康の偏食が奈津子の手間を少なからず増やしていた。


しかし、あまり社外には出ない内勤の夫にコンビニのお弁当でお昼を間に合わせてもらうのは奈津子には気が引けてしまい、おのずとお弁当を作ってしまうのだった。


結婚して8年。


よほど体調がすぐれない日以外は奈津子は康にお弁当を持たせるようにしていた。


体調以外にも最近は康のお昼をコンビニに託してしまう事が多くなった。


娘のさなが原因だった。


最近、さなが起きぬけにぐずる事が多い。


ただでさえ密度の濃い朝の激戦の中、さながぐずり始めてしまったらお手上げだった。


さながぐずった朝は康の「お昼は適当にすますから、さなをみてやりなよ。」という言葉に奈津子は甘んじることにしている。


申し訳ないと思うのと同時に言葉の裏側に奈津子は自分が心配するほど康はコンビニのお弁当が苦痛ではないらしく、むしろ喜んでさえいる気配を感じる。


そんな康の言葉をありがたいと思うのと同時に少しばかり奈津子を苛立たせた。


毎朝、私が苦労して作るお弁当は本当にあなたにとって不必要なの?


私のお弁当よりもコンビニのお弁当の方が美味しいの?


もちろん、奈津子も康が好意で言ってくれているのは理解している。


しかし、澄んだ透明な水の中に数滴だけ落とされた墨汁のように、もわっとした嫌な気持ちは確実に奈津子の中に広まった。




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