群青の月 〜『Azurite』take00〜
―― 細い、その両手首を握る
『女の子』はその間で
大粒の涙を流して泣いてる
…でも俺は
火の様な、こいつの目をもう
知っている
「 …歌、嫌いか? 」
「 ………好きだよ… 」
「 俺も大好きだよ
ずっと横にいるから
………ベーシストとして 」
「 ………ずっと…? 」
「 離れないよ 」
「 …ほんと…? 」
「 …世界中の誰がおまえを嫌っても
絶対に俺だけは、おまえの味方だ
…… 死ぬ時は、一緒に死んでやるから
それでまた、天国でバンドやろう 」
「 …なんかね 」
「 うん 」
「 …すごく…辛かったみたいなんだ…
歌えない こと 」
「 今頃気が付いてどうする 」
「 …今からでもいいよ… 」
「 何を? 」
―― 判っていたけど、わざと聞いた
「 ……… 」
「 …帰りに、サンデー食うんだろ? 」
「 …そうだった 」
「 ……おいで "あずる" 」
俺は
五階から四階への踊場でしゃがみ
奴に向かって、手を拡げた
あずるは、いつもの様に俺の膝に座り
初めて自分から、
俺の首に手を回して来る
それを強く抱きしめ、頭を撫でた
―― 携帯が腰で震える
『真木』だ
時間を見ると、リハ15分前
あずるをそっと
身体から離す
顔をあげた彼女には
もうそれが
何の抱擁だったか解っていたのだろう
瞳の青に、あの時の様な火が宿る
―― お父さんごっこは、終了した