劇場版 乙女戦隊 月影
「理香子…」

楓は少し離れた場所から、理香子達を見ていた。


「最低だよ」

理香子は中島の手から、乙女ケースを奪い取ると、夏希に返した。

夏希は、中島と理香子を交互に見ると、

理香子に頭を下げ、走り出した。

涙を拭うことなく、夏希は乙女ケースを突きだした。

飛び出した眼鏡が、涙を隠し…乙女ブルーに変身した夏希は、観光客を襲う下っぱ達に向かって走り出した。

「乙女スタンガン!」





「中島…何やってるの?こんなところで」

冷静な口調できく理香子に、中島は無言でこたえた。

「あたし…こんな中島見たくなかった…」


その言葉に、中島は理香子の顔を見た。

そして、信じられない言葉を口にした。



「お前なんか…知らない」





その他愛ない言葉は、理香子の心を簡単に破壊した。

「な…」

言い返す言葉が出ない理香子を残して、中島は歩き出した。


楓の横を通り過ぎる中島の顔を、

楓は見つめた。

声をかけようとしたが、その光なき瞳に、楓は絶句した。




理香子はその場で、動けなくなった。

涙も出なかった。

女の子を泣かす中島。

自分を知らないという中島。


それは、自分の知ってる中島とは思えなかった。

だから、涙が流れないんじゃない。



涙が流れない程…傷は深いのだ。


涙が流れる方が…外に出る方が楽なんだ。

流れない悲しみは、心の底に残り続けるから。

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