Happy garden.【短編】
春の夜は涼しいとはいえ、あまり長く持ち歩かないほうがいい。
腰を上げようとしたとき、どこからか「カスミ……!!」とわたしを呼ぶ声が聞こえた。
(誰……?)
中腰のまま辺りを見回すと、右のほうから駆けてくる誰かの姿が見えた。
ドクンと心臓が大きくはねる。
グレーのスーツに短い黒髪。
まさかそんなはずはない、と思いながらも、その姿は間違いなく誠司さんだった。
(ど、どうしよう)
腰を上げきると彼のほうを向いて、迷いながらも一歩下がった。
誠司さんはわたしから2メートルの位置で一旦立ち止まると、今度はゆっくりと歩みを進めた。
わたしたちの距離が縮まっていく。
それを見ながら、ごくりと唾を飲み込んだ。
「……やっとつかまえたで」
誠司さんの口元がニヤリと笑みを形作る。
「ど、どうしたの?」
どう反応したらいいのかわからなくて、まるで何もなかったかのように問うた。