Melty Kiss 恋に溺れて
パパは顔色一つ変えず、ダンディな仕草で頭を下げて見せた。

お母様が軽く眉を吊り上げる。

……まぁ、よくある光景の一つなので、総長はじめ誰もそのやりとりには取り合わない。

食事が終わり、銘々が立ち上がる頃、藪から棒にパパが口を開いた。

「次期総長は、どちらに?」

そう。
時間が合えば、一緒に食事を取る大雅が今日はここに居なかった。

「自室に篭っているんじゃないかしら」

お母様がさらりと答える。
パパは茶目っ気たっぷりに一礼して、食堂から出て行った。

「都さん、今日も麻薬売りさばきの現場を見つけたんですって?
清水から聞いたわ」

ゆっくりした仕草で食後のお茶を飲み終えたお母様が私に問う。
私は、壁際に立っている清水さんに視線を投げた。

ヤクザというより執事という肩書きの方がよほどしっくり来るような、30代半ばと思われる優男(やさおとこ)風の清水さんが目だけで私に礼をする。
もちろん、彼だってその気になればべらぼうに強いし、まぁ、色々と法に触れる過去もあるのだけれど、今は主に私のボディガードをしてくれている。

今日みたいに、私が暴走を始めるとさらりと大雅なんかに連絡をして手を打ってくれる素敵な方なのだ。

「はい。
ああいうのを見ると、放っておけなくて。考えるより前に、突っ走っちゃうんです」

「そういう時は、清水に任せればいいのよ」

「はい、すみません」

「でも、うちのシマで勝手に麻薬を売りさばかれるなんて、良くない傾向だわね。調査の必要があるわ」

お母様は私にだけ聞こえるように、そう言うと何でもない顔で立ち上がった。
口を閉じて歩くお母様は、凛としていて、なんていうか<極道の妻>の風格をたっぷりと備えていらっしゃる。
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