Melty Kiss 恋に溺れて
何食わぬ顔をして家を出る。

もちろん、約束通り赤城さんの車で高校に送り届けてもらった。
それが校則違反と知っていて、わざと。
学校の目の前に乗り付けてもらう。

「ありがとうございます、赤城さん。
帰りの時間はまた、清水さんの方から報告させて頂きますね」

私はぺこりと頭を下げて、まるで影の様に私についている清水さんと一緒に黒塗りの高級車から降りた。
当然、その辺に居る人たちの視線はこちらに注目するわけで。
清水さんは、一歩引いて別の方へと歩いていく。
赤城さんは、緩やかに車を発進させてお邸へと戻って行った。

これで私は自由の身だ。
すたすたと他の生徒に混じって校門をくぐる。

「八色」

私に声を掛けてきたのは、生活指導の渡辺先生。
まだ、学校の教師になって2年目の。
若くて人気のある数学の教師である。

「おはようございます」

私は何事も無かったかのように微笑んで見せた。
渡辺先生は、短い髪を軽く掻く。困っている時の癖だった。

「八色、いくらなんでも学校の前まで車で乗り込んでくるのはまずいだろう?」

「ええー?
駄目だったんですか、スミマセンっ」

私は大仰に驚いてみせる。
学校での私は、大人しく清純なイメージを突き通していたから、世間知らずだとでも思われているに違いなかった。
< 34 / 52 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop