世界から
「・・・すごいね、その眼。死体にまで命令できるなんて」
「生きていなければどんなものにでも可能だ。ゾンビの軍隊を作ることも可能だな、・・・まあそんなことをしても無駄なことだが」
「何故ですか?」
シオンが質問した。本当にそんなことが出来るとしたら、一人で世界征服でも出来そうなほどなのだが。
「一人の人間が同時に何千何万という人間を動かせるとでも思うのか?」
「・・・無理、でしょうね」
「軍隊というのは一人のものではないのだ、兵が居て、指揮官が居て、更にその上が居て・・・そして、守るものがあって初めてそれは“軍隊”となるのだ。それをただの道具としか見ていない者がいるとしたら・・・私はそいつと仲良くはなれないな」
「さっきチェスの駒がどうとか言っていませんでしたか?」
「あれは喩えだ、馬鹿者」
話しているうちに、先ほどの男が数人の男達を引き連れてきた。
何人かは倒れた男を運び込み、残りの男たちはこちらに向かってきた。
「さて、来たぞ。準備はいいな?」
数分後にはこちらに来た男たちの内の一人が、また同じように紙切れを持って門番の前で倒れた。
しばらくした後には、さっきよりも多い、何十人もの男達に加え、兵士までもが町の外へ駆け出していった。
「さて、これで大分警備が薄くなった。奴らはあの紙切れの言葉を信じて、まだ戦っている筈の仲間達を助けに行った筈だ」
「よく簡単に騙せたね」
「奴らの殆どが戦闘経験の無い普通の人間だ。それに元々同じ町に住んでいたもの同士で隊を組んでいるようだ。情で簡単に軽率な行動を取ってくれる。仲間の危機には皆で助けに行く・・・殊勝な心がけじゃないか」
「何だかこっちが悪いことしてるような気が・・・」
シオンがぼやくとロゼは笑って
「そうぼやくな、御陰で余計な殺生をせずに済んだのだ」