君と出会って
「そーちゃんがそんな風に言ってくれるなんて思いもしなかった」

真由はいきなり俺の背中に抱きついた。

前に回された細い指先に自分の手を重ねる。

…ここに入ってから。

初めてホッとした気がする。



シーズンが開幕しても。

俺が引退した事を受け入れてくれない人達がいて。

『どうして走らないの?』

『まだまだいけるのに…』



それは、自分の中でも葛藤し続けた事だった。

まさか、30代に入ってからライダーとして才能が開花するとは思ってもみなくて。

賢司さんが亡くならなければ、今年も走っていたと思う。

でも、人はいつか自分で線引きをする時が来る。

俺の場合は去年だったんだ。

最高の成績を残して、辞める。

自分の中で何度も言い聞かせた。

心のどこかでは辞めたくない、と叫んでる自分もいたから。



「そーちゃん?」

真由は俺の前に移動して慌てる。

「ごめん、私が我が儘ばっかり言ったから?」

真由の手が俺の頬を撫でる。



いつの間にか、涙がこぼれていた。
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