蜜事中の愛してるなんて信じない
忘れたとは言わせない

「正志、あの時、言ったじゃない」

 思い出すたび、胸がつんとする。

「あの時ってどの時だよ」

「初めて科学未来館に行ったときの帰りのゆりかもめで」

 私は頭の中で帰りのゆりかもめの車内を再生していた。


 科学未来館を出たあと、正志の背中を追って駅に向かって歩く。
 一歩進むごとに形を変えるTシャツのしわに焦点を合わせる。

 駅に近づくに合わせて増幅する甘酸っぱい気持ちがそうさせるのか、不意に、西日をうける大きな背中に飛びつきたくなった。

 混乱を生み出すその衝動に必死で抵抗する。
 歯を食いしばると、ぎりっと奥歯が鳴った。
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