青春の蒼いカケラ
で一通りの話を聞いたあとは、マークシートに印をつけるだけだ。はるおちゃんは、印どおり買えばいいとのことだった。 
「こっち、こっち・・・」
下調べしてたらしく、すぐに分かった。黄色いビルが目印らしい。
「この歩道橋を渡ればいいんだ ・・あれ?」
「どうしたんだい?」
「財布がない?」
「おとしたの?」
「ない?」
 はるおちゃんは、財布を落としたらしい。資金の五十万円がなくなった。はるおちゃんは、取らぬ狸の皮算用をしていたにこやかな顔が、青くなってきた。はるおちゃんが言い出した。 
「こりゃ競馬どころじゃないぞ」
「とりあえず、駅まで歩いてみよう」
なおとは言った。財布を落とした経験から言うと、歩いてきた道を、逆戻りしながらいけばいい。財布は黒の皮で縦長で、はるおちゃんの運転免許証と銀行のカードがはいっていた。下を見ながら駅までずっと歩き、駅員さんにも尋ねてみた。無いとの事だった。交番を教えてもらい、届出を出しに行った。
「どうする?」
「まぁどうにかなるだろう」
交番へ届出を出した後、近くの喫茶店へ入ったら、座ると同時に、はるおちゃんが言い出した。
「いくら持っている?」
「一万円」
「じゃあ大丈夫だ」
「なんで?」
「俺は昨日、一万円から五十万円にしたんだ」
はるおちゃんは、また一万円が五十万円になると思っているらしい。
「使いなよ」
なおとは、一万円を差し出した。
「よっしゃあ、やるぞ」
どうも取らぬ狸の皮算用をしているらしい。
「まあいいっか」
なおとは銀行に百万円有ったので、一万円位どうでもいいと思ってきた。アパートには、五万円置いてきていた。五十万円を落としたのにケロッとして、競馬新聞を見ながら印を付けて、夢中になっているはるおちゃんを、感心していた。
「ユメノライジング、と、キングオブラッセル、が着そうだな」
「何レース」
「一レース」
「ふううん」
「この ◎ と ▲ を絡ませるんだ」
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