太陽が見てるから
いつも化粧なんかしていないくせに、今日はほんのりと化粧していて、上下紺色の社服姿だ。

化粧顔のさえちゃんを見るのは、正直辛かった。

泣けて泣けて、仕方なかった。

化粧をしているさえちゃんと翠は、印鑑のようにそっくりだ。

「響ちゃん、健吾くん」

おれがエース番号を貰ったあの日から、さえちゃんはおれをそう呼ぶようになった。

毎朝、おれと健吾が翠を迎えに行くうちに、さえちゃんと健吾も友達のように仲良しになった。

さえちゃんの中でおれは「補欠」から「響ちゃん」になった。

「さえちゃん! 翠は? 大丈夫なのか? 今日、練習さぼった」

とおれが言い、すかさず健吾が続けた。

「翠に会える?」

すると、さえちゃんは小さく笑って頷いた。

「うん。さっき目覚ましたんだよ」

金色に近いショートヘアーの髪の毛が少し伸びて、今は肩につきそうなくらい長い。

さえちゃんの髪の毛がのびた分だけ、おれと翠も一緒に過ごしてきたのに。

それなのにおれは翠の変化に、我慢にすら気付いてやれずに、今ここに立っている。

極まりなく、情けない顔をしているだろう。

「行こう。着いてきて」

さえちゃんは病院の中を馴れたようにスタスタ歩き、エレベーターを乗り継ぎながら、だいたいの事をおれと健吾に話してくれた。

「隠しててごめんね。脳腫瘍っていってもその中の髓膜腫っていう、良性の腫瘍なんだよ」

「良性?」

悪性だとばかり思い込んでいたおれは、良性、と聞いて本当に救われた気持ちになった。

健吾も隣でほっと胸を撫で下ろしたように見えた。

でも、さえちゃんは、良性だからと言って安心はできない、と顔を歪ませた。

「良性でも腫瘍は大きくなるんだって。放置しておくと、手足の麻痺とか意識障害すら起こしかねないんだって」

「けど、悪性じゃないんだろ?」

健吾が訊いた。

健吾もまた、翠のことが心配なのだ。

いつも口喧嘩ばかりしているけど、何だかんだと仲がいい。

「でもね、翠の命を奪う危険性もあるんだって。腫瘍ね、翠の左の脳にあるの」



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