太陽が見てるから
机につっぷしたまま泣き続け、左手をぎゅっと握り締めた。


いつだったか、翠がおれに言った一言が脳裏を駆け巡っていた。


―補欠! あたしを甲子園に連れて行け!―


可愛くて、少しだけハスキーで、でも、やっぱり可愛いとしか言い様のない、あの声が。


「ちきしょう! んなこたあ分かってるよ」


泣いて、泣き疲れて、唇を噛んで、また泣いて。


ほとほと泣き疲れた頃には、もう、東の空に朝日が昇っていた。


おれは朝日を真っ直ぐ見ることができなかった。


眩しすぎて、見れない。


翠の願い事はあまりにも眩しいものばかりで、中途半端なおれには直視することができなかった。


翠は、太陽みたいな女だ。


こんな事を言えば、古くさいなんて笑われてしまうだろうけれど、でも、そうとしか言い様がない。


翠は、おれの、太陽だ。


太陽の願い事は、あまりにも遠くにあって、手が届かない。









< 239 / 443 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop