太陽が見てるから

炎天下の涙

バスを降りると、県立球場の上空には凪いだ夏の海が広がっていた。


それも、夜明け直後の新鮮な色だ。


それくらい清く清潔な青空が広がっていた。


スポーツバッグを背負い、空気を鼻から肺に詰め込む。


微かに、塩素の匂いがした。


つーんとしみる匂いだ。


背後で、大型バスが排気ガスを撒き散らしていた。


大会本部から岸野が戻って来て、ナインに告げた。


「一塁側、後攻だ。グラウンドで練習して、ロッカールームで最終ミーティング」


中央入り口前から、一塁側の東口へ向かって歩いていると、向こうから縦縞のユニフォームを着た選手が3、4人向かってくる。


縦縞のユニフォーム、黒いエナメル質のスポーツバッグ。


桜花だ。


「うわ、桜花だ。やっぱ威圧感がすげえや」


ね、夏井先輩、と背後から声を掛けてきた勇気が、おれのユニフォームの袖を引っ張った。


その時、歩き続けるナインの輪を外れて、おれと健吾と勇気は立ち止まった。


修司。


すぐに分かった。


わざわざ探さなくても、修司はすぐに分かる。


体格のいい選手揃いの桜花の中でも、一際目を引く。


俳優のような爽やかな二枚目の顔。


他の選手より頭ひとつ飛び抜けて背が高い。


男から見ても、あいつはカッコいい。


うつ向き加減で向かって来る修司が、顔を上げてハッとした。


目が合う。


でも、おれも健吾も勇気も、そして、修司も。


一切、言葉を交わす事はしなかった。



ただ、目を合わせて、ニヤリと微笑み合い、そして目を反らしてすれ違った。


振り向くような事はしない。


絶対、修司もそうしたのだと思う。



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