太陽が見てるから
はあ、と大きな溜め息をもらして、なぜか健吾までもがおれの布団に侵入してきた。


「暑っつ……」


うんざりだ、と落胆した。


「よし、響也、勇気。前夜祭すっか」


明日の決勝。


お前は最後の一球に、一打に、何をかけると健吾が訊いてきた。


「ちなみに、おれは野球人生をかける」


と健吾は言い、フフンと鼻で偉そうに笑った。


「勇気は?」


健吾が訊くと、ややあってから勇気が小声で答えた。


「そっすねえ。おれは、南高校野球部の固い絆」


「けっ。年下のくせに生意気だな」


健吾がバカにしたように笑うと、勇気はすねたようにフンと鼻で返した。


2人に挟まれながら、おれは笑った。


「なに笑ってんだよ」


左から健吾、右からは勇気にドンと肩を小突かれた。


「そういう夏井先輩は、何をかけるんですか」


おれは何も答えず、ぼんやりと暗い天井を見つめた。


明日の決勝に、おれは何をかけたいのだろう。


翠のように、人生をかけてみようか。


それはそれは、数えきれないほどの案が止めどなく思い浮かんだ。


右からも左からも、痛いほどの視線を感じる。


しばらく沈黙がながれ、健吾が眠ってしまったようだった。


すうすう、寝息が聞こえてきた。


そのあと間も無く、勇気も眠りに就いたらしかった。


ぐうぐう、寝息が聞こえてくる。


言い出しっぺが先に寝てら。


一度だけククッと笑い、おれもそっとまぶたを閉じた。


大部屋は甘い香りに包まれていた。


かき氷のシロップの残り香だ。


「その瞬間になんねえと、わかんねえや」


ぽつりと呟いて、おれも眠りについた。


3人、川の字になって眠っていると、まるでグラウンドに居るような気分になった。


左に捕手、右に中堅手。


< 367 / 443 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop