ちょっと短いお話集
 ……なに? 

 あたしは少し勇気を振りしぼって、その男の人に話しかけてみた。


 でも、返事はない。仕方がない、小さな声だもん、きっと、聞こえなかったんだろう。


 男の人は、まだ私のほうを見ている、白い服を着て、白い顔をしている。いつも白一色だ。元気がなさそう。



 さみしいのかな?



 あたしは、もう一度声を掛けようと思い、その男の人を見つめた。


 すると、目があった。


 その瞬間、あたしは、すぐにうつむいてしまった。


 きれいな黒い瞳。吸い込まれそうだ。


 頭の中が真っ白になってしまっている。


 なぜか、恥ずかしくてたまらない。


 それから、どれくらいの時間がたったのだろう。あたしにとっては、とても長い時間。


 「まだ、もうすこし」


 彼が喋った。


 思ったとおりの優しい声、それでいて、どこまでも届きそうな透き通った声。
 しばらくその男の人はあたしのほうを見つめた後、ゆっくりと歩いて去っていってしまった。


 それにしても、あたし、真っ赤になってなかったかな、気づかれなければ良いんだけれど。
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