執事の憂鬱(Melty Kiss)
清水が入社したのは、テレビのCMでもよく名前が知られている住宅建設会社だった。もちろん、上場しており安定していると当時は誰もが信じていた。
親だって、喜んでくれたものだ。

清水は、設計志望で入社したのだが、入って最初に配置されたのは経理部だった。
まぁ、サラリーマンたるもの仕方がないと腹を括った清水は、経理について猛勉強をした。

畑違いではあったが、簿記も会計学もやってみたら面白かった。

そして。
分かってみたら――

自分の会社の経営状態があまりにも酷くて眩暈がした。

過剰な借入金。
明らかに収入を上回る役員報酬。
手形の乱発。

資材の質は見る見る落ちていき、客単価は反比例するようにあがっていった。

つまりは。
明らかに低品質な住宅を恥ずかしげも無く高い利益を上乗せして売りさばくような会社だったのだ――

酷い、と思った。
思っていれば良かったのだ。

清水の失敗は、それを。
思わず口に出してしまったことにある。

< 10 / 71 >

この作品をシェア

pagetop