執事の憂鬱(Melty Kiss)
短くなった煙草を灰皿に押し付け、紫馬はウィスキーを弄ぶように、氷を鳴らして見せた。

しばし、耳が痛くなるような沈黙が続く。
そして。

「で、そろそろ落ちた?」

と。
まるで今までの話なんてなかったかのような、無邪気な笑顔が清水を見た。

「……は?」

清水は質問の意図が掴めずに、真顔で首を傾げる。
眉間にやや、皺を寄せたほどだ。

くすり、と。羽が床に落ちたかのようなかすかな笑い声が清水の耳に入る。

「冗談だって。
あの話、女性を落とすのに丁度いいんだ。
長さといい、深刻さといい。
ほろっときて、その後感度もめちゃくちゃ良くなるの。
ほら、夜の営みの素敵なスパイス、みたいな。
ね、ヒデさんも俺に落ちたりしなかった?」

美しい笑みを口許にのせ、わざとのように下卑た台詞を吐く。

長い付き合いの清水にはそれが嘘だと手に取るように分かったが、取り立てて言及はしなかった。

そうして。
本当に、長い付き合いになったなぁと苦笑して、徐々に薄まっていくウィスキーを口に含んだ。
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