執事の憂鬱(Melty Kiss)
14.ムーンリバーを聴きながら
++++++++++

カラン、と。
飽きるほど、手の中の氷を鳴らす。

手のひらが冷えてきた頃、清水が口を開いた。

「入るチャンスも滅多になかったろ?
っていうか、俺は結局銀組の構成員じゃないわけだし」

「構成員じゃないから、抜ける必要もないってこと?
俺が言ってるのはね、ヒデさん。
言葉遊びなんかじゃなくて」

清水が顔をあげて、真っ直ぐに紫馬を見た。
大学生の頃とは随分と変わってしまった。

一般人とは違う、鋭い光を放つ剣呑な瞳。
それから、きっぱり言った。

「分かってる、ありがとう。
感謝してる。
でも、いいんだ。
これ以上は俺の責任であり、俺の意志だ。もう、ソータは関係ない」

ソータ。
あまりにも懐かしすぎる呼び方に、紫馬が顔を顰めた。

それから。
一呼吸置いて、ようやくいつものペースを取り戻す。

「なんだか、ツマンナイくらい育っちゃったんだねぇ」

「きっと、紫馬の頭のお陰ですよ」

清水も、屋敷内でよく使う普段の口調に戻っていた。

「何それ、皮肉?」

「どうとでも、取って頂いて結構です」

「ふぅん、そう。
なんだか、娘に巣立たれた日に、拾った犬にも逃げられちゃった気分だわー俺」

一際、砕けた口調で紫馬が言う。
< 61 / 71 >

この作品をシェア

pagetop