皎皎天中月

 昂礼が馬の手綱を引き、暁晏は並んで歩く。世間話をいくつかしたが、昂礼は黙りがちだった。むくれている。
「私には、年下の友人がいてな。その友人は、小さい頃から頭が良いやつで。私が怒られるようなことをすると、まあ私は落ち着かない子供で、何かとこっぴどく叱られたのだが、友人は私が叱られるのをよく目にしていたのだ」
「それで……」
「同じいたずらをしても、上手くやるし、」
「……怒られない」 と、 吐き捨てるように昂礼は呟いた。
「覚えがあるか」
 言い当てられたのは驚いたが、昂礼が応えたのは嬉しい。暁晏は続けた。
「何とももどかしい思いをしてきたよ。何で自分だけ怒られるんだ、って。それからも、怒られないように、自分なりにやってきたつもりなんだが……な」
 姫のことで、城へ戻ったらどのような処遇が待ち受けているかはわからない。もし城に居られなくなるようならば、その「怒られない」 友に、後を託したいとは思うが。
 暁晏の話に、昂礼がぽつぽつと返事をする。それを繰り返しているうちに、目的の家に着いた。恵正に会いに来たのだ。
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