皎皎天中月
 と、廊下を駆けてくる足音。何事か、と二人は扉へ目を遣った。
「枋先生、おいでですか」
 扉の向こうから。
 暁晏は扉を開け、そこに立っている武人を部屋に入れた。

「どうした」
「姫様がお気づきに。陛下がお待ちです。――杏先生も、ご一緒に」
 どうぞ、という武人の顔を、恵弾は冷めた目で見ている。昨日の昼間、恵弾と恵孝に刃を向けた兵士だ。

「楴」
 暁晏はその兵士を呼んだ。
「はい」
「その顔を、姫様の前では見せるでないぞ」
 兵士は、短い髪に手を遣った。顔を隠そうにも、感情は表情から溢れてしまう。

「先生……人の命に、優劣はない。そうでしょう」
 言っている間にも口が歪む。強い感情が内からにじみ出る。
「……そうだ」
 暁晏は、苦いものを飲み込むような顔をして頷いた。
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