皎皎天中月
第十の月 二十四日


 右足首が鈍く痛む。鈍さの中に、時折針で突き通すような激しい痛みがあって、枕元の鈴を鳴らす。侍女が暁晏を呼び、暁晏は恭の足の傷を診て、場合によっては痛み止めを飲ませた。

「栃先生、その痛み止めは飲みたくない」
 今日もまた、暁晏は同じ薬を差し出した。痛み止めを飲むと、痛みを感じなくなるが、頭にぼうっと靄がかかったようになり、起きているのが億劫で、考えることを止めたくなるのだ。
「では痛みをご辛抱されますか」
 暁晏は訊く。薬包紙を袂に戻した。

「あとどのくらい痛みが続くのか、先生には解るの?」
「傷自体の痛みでしょうから、次の満月の頃までは。傷が塞げば、痛みは収まりましょう」
「まだまだ先ね」
 それなら飲むわ、と恭が手を出したが、暁晏は薬を出さない。

「もし、姫様が耐えられるのなら、私もこの薬は止めたいのです」
「何かあるの」
 暁晏はゆっくりと息を吐いた。

「何故、飲みたくないと思われたのです」
「問うているのは私よ」
 また、ズキンと痛みが走る。顔をゆがめる。
「……飲むと、何もしたくなくなるのよ。嫌よ、こうやって横になっているだけでも退屈なのに、さらに頭も動かないなんて」
「それが薬というものなのです。両刃の剣です、痛みを感じさせないと共に、考える力も抑えてしまう」
 恭はそっと手を引いた。
「そして、この薬を使い続けると、だんだん効きにくくなっていきます。同じだけの効果を得るのに、より多くの量が必要になります。量を増やせば、効果を得るだけでなく、思考を奪う時間も増えていく……」
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