ハリなしハリネズミ
家に帰ってガムは泣きました。
 ケガが痛くて泣いているのではありませんでした。
 部屋のすみっこで泣いているガムをガムのお母さんが見つけて
「どうしたの?」
と、聞きました。
「なんでもない」
「なんでもないのに泣いているの?」
 ガムのお母さんは心配そうにガムのそばに近寄りました。
「なんでもないったら!」
 ガムは怒って言いました。でもハリがかたくはなりません。
 ガムはまたしょんぼりしてしまいました。
「―どうして、ぼくのハリはかたくならないの?」
 ガムがやわらかいままのハリを見上げてつぶやくと、ガムのお母さんはガムのハリを優しくなでて言いました。
「ガムは私たちのハリがどうしてかたくてツンツンに伸びるか知ってる?」
 ガムは小さくうなずきました。
「知ってるよ。大きなクマに食べられそうになったり、ドクを持ってるヘビにかまれたりしないようにするためでしょ」
「そうね。でもこの森で私たちハリネズミにそんなことをする動物がいるかしら?」
 ガムは少し考えてから言いました。
「いないよ」
「そうね。じゃあ、どうしてそれでもハリをかたくする必要があるのかしら?」
 ガムはまた少し考えてから言いました。
「わからないよ」
 ガムのお母さんは、ほほ笑んで
「それはね、本当は必要ないからよ」
と、言いました。
「必要ない?」
 ガムのお母さんは薬箱を持ってきて、ガムの体を手当てしようとしました。
「お母さんはハリのかたくならないガムが大好きよ。だって、だれのこともキズつけない優しい体ってことじゃない」
「それじゃあ、ダメなんだよ!」
 ガムはお母さんの手をふりはらい、家を飛び出していきました。
「―お母さんは、なんにもわかってない」
 やわらかいハリをゆらして怒りながら、ガムは気がつくと森の外に出ていました。
 森の外は草原が広がっていて、遠くまで見わたせます。
 ずっと向こうに川が見えました。
「冷たい川に入れば、ハリがかたくなるかもしれないぞ」
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