ジェンガたちの誤算

「どこ行きたい?」

雛子はベッドの上で両足を前後に揺らして言った。

「その前にさ、エアコン壊れてるみたいなんだけど、
 言ってほしいな、フロントに英語が通じないんだよね」

私が残りのマスカラを塗りながら言うと、
雛子は電話を取ってすっかりとネイティブな発音で話し出した。

英検2級を取ったのは私のほうが半年も早かったのになぁ、
なんて考えながら私は化粧ポーチに、辺りにちらばした化粧品をしまい、
立ち上がって鏡の前に行き、髪の毛をブローした。

ドライヤーを切ると雛子が、

「なんかねー、壊れてるかもしれないから、部屋変えるかって」

「まじ?」

「うん」

私はやっと自分のものになってきたこのバスルームと、
広げたトランク、繋げたPCを思って、寒さよりもそれらを優先した。

「じゃあいいや、我慢する」

私が言うと雛子は再び受話器を取ってその旨を伝えてくれているようだった。

その姿を見ながら私は、小さい頃母親と行ったデパートで、
一人でトイレに行くと言ったあと迷子になり、
泣きながら知らない女性に母親を探してもらったことを思い出した。
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