あなたが一番欲しかった言葉
「真梨子、また来るから。気をしっかり持つんだぞ」

それだけ言うのが精一杯だった。

真梨子は、僕の問い掛けにも、まったく反応を見せなかった。

おばさんに会釈をすると、僕は病室のドアをそっと開け廊下へ出た。




院内に入院している患者さんと、何人もすれ違う。
午前の検診に、慌しく歩き回る看護師さん。

人が一人死んでも、社会は普段通りに動いていく。
大事な友が死んでしまったというのに、世界はいつも通りに回り続ける。

人間とは、いかに小さい存在なのか・・・。



外へ出ると、頬に冷たい雫が落ちてきた。
みぞれ交じりの雨だった。


春の雪・・・。


平日の街の喧騒の中に向けて、僕は車をスタートさせた。
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