ココアブラウン
しばらく考えてから折り返し社長に電話をかけようとした。

受話器を取り上げたとき、かすかに絵里の電話の声が聞こえてきた。


「CD-ROMですか?さあ、よくわからないですけど」

舌足らずな絵里の声が静かなオフィスに響いた。

「インストール?書いてあるとおりにすればいいと思います」

絵里は電話を切るとめんどくさそうに伝票整理に戻った。

また、CD-ROM。

あたしは絵里に話しかけた。

「絵里ちゃん、今の電話の内容具体的に教えて」

「なんか、うちの会社からCD-ROMが届いたって」

絵里は下を向いたまま答えた。

「それだけ?それだけじゃないでしょ。もっと具体的に」

「それからー。なんか手紙が入っててパソコンにインストールしろって書いてあるみたいですよ。しろって書いてあるんだからしとけって答えましたけど」

頭の中で黄色いシグナルが光った。

あたしの覚えのない郵便、インストールの指示。

絶対にありえない。


よしんばうちからの郵便だとしてもインストールするようなIT商品は扱っていない。

この会社は小さいとはいえ総合商社だから多種多様な商品がある。

ゆりかごから墓場まで、商品はカテゴリごとにセクションに分かれさらにその下、ディビジョンごとに守備範囲があるはず。

あたしだって扱う商品を全て把握してるわけじゃない。

だけどIT関連は親会社の仕事だ。
組織の中で守備範囲を越えて何かが起こるなんていいことであるわけがない。

歯車は自分の位置を動くことなんでできやしないのだ。

位置がⅠミリだってずれたら会社全体が狂いだす。

働く人間が替わったって組織は変わらないけど。


−部長に連絡しなければー


あたしは部長室のインターフォンを鳴らした。

そのとき一瞬躊躇するような間があった後、外線電話がいっせいに鳴り響いた。
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