ココアブラウン
大急ぎでおつまみと氷を運ぶ。

「あと何分 かかるんだ?」


20分待ってください、そう言って野菜を刻んだ。


中華鍋で牛肉を炒め切った青菜とトマトを入れた。醤油と味醂、トウバンジャンで味を整える。


冷蔵庫から作り置きのだし汁を温めてときタマゴを加え、最後に片栗粉でとろみをつけた。


餃子と点心をせいろに入れて強火で蒸し上げた。
仕上に千切りにしたしょうがを乗せて火を中火にする。

その間にお風呂を掃除してお湯を張った。

漬物をそえて夫の前に運び箸を揃えて夫に手渡した。

夫はトレイのおかずをちらりと一瞥するとあたしに言った。


「手抜きだな。簡単なものばかりだ。まあ今日はいい。明日から気をつけろ」


夫は箸を取って食べ始める。

あたしはその間に米をといで炊飯器のスイッチをいれた。


テレビをみながらタバコを吸う。ときおり新聞を広げる。

夫は食べることだけには集中しない。


夫によればこれは極めて有効な時間の使い方であってビジネスマンとしてのたしなみなのだと言う。


あたしにはお行儀の悪い子供にしか見えないけど。

くちゃくちゃと音を立てながら夫はあたしに言った。


「お前明日休み取って美樹のところに金持っていけ」

「明日ですか?それはちょっと。明日、私が抜けるわけには。あさってなら何とか」


夫はあたしの話なんか聞かない。トマトを箸で刺して続けた。


「いちいち口答えするな。お前、たいした仕事してるわけでもないくせに。明日というのは美樹の指定だ、いいから明日あいつの会社まで行ってこい。それから白いメシ」


やっとあたしの目を見て言った。

「炊きたてだろうな」



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