ココアブラウン
あたしは絵里を残して会社を出た。

絵里は今までに見たことがないくらい真っ青な顔をしていた。
今回のリストの管理はあたしの担当だから、いくら休み中のこととはいえあたしもなんらかの処分はまぬかれないんだろう。

もう来年の初めにあたしの席はないかもしれない。
山本が言うとおり家庭に入って子どもでも生まれてしまえば誰も傷つかずに終わるのかもしれない。


目を閉じて思い起こした。
ちょうど一年前。

「この結果って私には子どもができないということなんですか」

「できないわけじゃないですよ。ただ、できにくい、ですね。生まれつきなんでしょう。男性の協力があれば望みはありますよ。今、多いんですよ。特に働いてる女性には。今は人工授精も体外受精もいろんな方法がありますから。ご主人も調べたほうがいいですよ。相性もありますから」

「主人は・・・」

「病院に来てもらって精子を採取して調べます。数とか運動量」

「それから奥さんの卵胞細胞を培養して受精が確認できたら子宮に戻します」

「あの。あの自然妊娠はできないんですか?100%?」

「100%とは言い切れませんが自然妊娠はそうとう難しいですよ」

産婦人科医の言葉が耳の奥に残っている。

夫は子どもを望まなかった。だけどあたしは子どもを抱く自分を夢見ていた。
健康診断ついでの軽い気持ちで検診をうけてあたしはこう告げられていた。



チェックメイト




のろのろと歩いた。

通りすがる道のわきにはたくさんのサンタクロースがプラカードを持ってたのしげに話しかけてくる。
クリスマスケーキはもう半額に値引きされているらしい。

思い立って一番大きな白いケーキを買った。

ケーキ上にサンタの家やトナカイ、雪だるまが乗った子供用のもの。

いちごがたくさん飾ってあってにぎやかだ。

子どもがいたら・・・。


今日みたいな日は。

美樹は隆太とケーキを食べるのだろうか?
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