ココアブラウン
「大人のオトコはブルマンでしょ。ココア飲んでると相手に示しがつかない」

いつもあたしが思っていたことだった。

どんどん入ってくる女子社員たちに気弱な自分を見せたくなくて飲みたくないコーヒーを飲んでいた。

オトナはコーヒー。


そんなこと本当は何にもならないのに。

「で、俺が好きなのはこの70円のミルクたっぷりココア。バンホーテンとかはココアでも大人です!って主張してるから嫌い」

新はポケットからコインを取り出すとココアのボタンを親指で押した。

紙コップが落ちてこぽこぽとお湯が注がれる音がする。

「バンホーテンは大人?」

「そう。だからはい、ミルクココア」

あたしは耐えられずに笑い出した。
おかしくておかしくて止まらなかった。

酔っ払いの大トラ。


「俺は大きいミルクココア。小さい紙コップのは飲んだ気がしないし、ココアの粉が少ない割にお湯が多い」

新は湯気の立つ紙コップをゆすった。


「もしかして冷ましてる?」

「そう、俺猫舌だし。ココアは冷めにくい」

あたしは紙コップを抱きしめた。

立ち上る湯気にあごを当ててうつむいた。

「あれ、泣き上戸?」

「違う。井上さんそんなこというタイプだなんて。笑えて笑えて。苦しいくらい」





「なんだ、ゆかちゃん。ちゃんと笑えるじゃん」
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