ココアブラウン
「君のところの社名で何か届いておるが発注もしていないが。何かほら、あれだ。シーデーだ。これは」

「CD-ROMですか?」

「パソコンにインストールしろと書いてあるが、私はやり方がわからん。おたくの営業を一人こっちに寄越してくれ」

電話を切ったあとなんだか不思議な気がした。

視線を感じて横を見ると新が怒ったような顔でにらみつけていた。


「帰ってきたら誰もいなかった」

「ごめんなさい。ちょっとお化粧室に」

「化粧直しにいってたわけ。仕事ほっぽりだして」

「いえ、私は」

「言い訳はいいよ。事実を言っただけだから」

新は乱暴に言うと携帯を取り出してプッシュしだした。

とりつくしまもない。

あたしたちの仕事で面倒をかけたのは事実だから、あたしは黙って頭を下げた。

新はこちらすら見ない。



あたしはさっきの電話が気になってデータベースを探った。


くだんの社長の会社からは10月の始めから発注はない。

CD-ROM?

ー注文もないのに?ノベルティかな?ー



パソコンのキーをたたいていると、絵里がぶらぶらとポーチを振って戻ってきた。


「あー、新ちゃん、おっかえりー」

「ばーか、遊んでんじゃねーよ」

「ひっどい。きれいにしてきたのに」

「おぅ。いつもかわいいぜ」



思わず振り向いていた。

なんで?あたしに対する態度となんでこんなに違うの?

絵里は腰をくねらせるように新にまとわりついていた。


「絵里ちゃん」


聞こえているのか聞こえていないのか絵里は戻ってこない。


「絵里ちゃん、仕事」

やっかんでいるように見えないだろうか、そればかりを気にしてあたしは冷静を装って声をかけた。


嫉妬


この気持ちは嫉妬だ。


ジェラシーなんてかわいいもんじゃない。





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