もう一つの【ゴル裏】〜いつかの公園のベンチで〜
第10章〜帰省〜
それにしても暑い。時折吹くマイナスイオンたっぷりの潮風も真夏の太陽の陽射しには勝てていない。
僕はそろそろと腰を上げた。
堤防を来た時とは逆の方向へ歩いて行く。
と、一人の人影が僕に近付いて来た。
「おいちゃんとこ行ったら浜におるってゆってたから」
人影は僕の従兄弟のものだった。
(#゚Д゚)
「知らん女の子人がおったけど?あれっち、そう?」
この従兄弟とは、父親のお兄さん、つまり網元の長男だ。
僕は分家の長男。
従兄弟は高校を卒業すると家業である漁師となった。
高校は別々だったが、中学までは同じ野球部でバッテリーを組んだ仲だ。
(#゚Д゚)
「お前の考えとる事は全部解るよ」
僕が家業を継ぐ気が無い事を打ち明けた時、そう言って笑っていた。
僕は家業を継いで漁師にならなかった事を後悔した事は一度もない。
むしろ今の漁業情勢を取り巻く環境を考えると「(漁師にならなくて)良かった」とも思えた。
しかしながら、僕は漁師となった従兄弟の事は尊敬している。網元に産まれた事を考えれば他に余地は無かったのだろうが、それでもこの従兄弟の事は尊敬できた。
歩きながら夜訪問する事を約束し水槽小屋の前で別れた。
(´・ω・`)
(本家に行くと飲み潰されるんだよなぁ・・)
水槽小屋の中から笑い声が聞こえて来る。
父親がしぃちゃんの事を気に入るまでにはそう時間は掛からないとは思っていた。
僕はトタン扉を開け、「お昼にしませんか?」と声を掛けた。
しぃちゃんは僕の顔を見るなり「ププッ」と吹き出す。
(´・ω・`)
(どうせくだらない昔話を父親から聞いていたんでしょう・・)
僕は父親からしぃちゃんを引き離し、昼ご飯の調達へと向かった。
「出来たら呼んじくりぃ」
父親の格闘は続いていた。
近くのスーパーへ行く為に車に乗り込んだ途端に「ぎゃはははは」と馬鹿みたいに笑い出すしぃちゃん。
(´・ω・`)
(全く、あの人は何を喋ったんだろうか・・)
でも、しぃちゃんの馬鹿笑いは久々に聞いた。
ちょっとは感謝してやろう。
久しぶりの田舎は気持ち良く僕らを出迎えてくれたようだ。