【ひな祭り短編-2009-】初恋の味はひなあられ。
 
当時、おばあちゃんは誰かの介護なしではベッドがらも起き上がれない状態だった。


付きっきりで介護する嫁、あたしのお母さんに、よく『迷惑かけて悪いねぇ』と口癖のように謝っていた。


心の優しいおばあちゃんは“迷惑がかかるから”と老人ホームで暮らしたがっていたけど、お父さんもお母さんもあたしも、離れて暮らそうなんて思わなかった。


みんなおばあちゃんが大好きで、だからこそ最期はこの家で……。


そう覚悟を決めて、1日1日を家族で大切に過ごしていたんだ。


それなのに……。


お裁縫が得意だったおばあちゃんは、体を悪くする前はぬいぐるみでも手提げ袋でもなんでもすぐに作ってくれた。


だけど、体を悪くしてからは、手が震えて針に糸も通せないほどだった。


そんな、自分の体もうまく動かせない中であたしのために作ってくれたひな人形だったのに……。


悔しくてたまらなかった。涙が止まらなかった。それから、言い返したくても泣くだけだったあたしが一番悔しかった。


おばあちゃんを守ってあげたかったのに……。
 

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