あかねいろ

『大斗君ご苦労様♪君は掃除でもしてなさい。夕陽ちゃんこっち来て♪』

『お前一体何する気だよ?』

前の午後3時、咲は大斗を無視し厨房に入っていった。

中にはマスターが仕込み中のようだ。


『あのね♪今晩大斗の誕生日会するから、夕陽ちゃんにケーキ作ってもらいたいの♪料理できるって聞いたから、どうかなぁ?あたし料理できない♪』

と満面の笑みでコソッと言う。


そっか…そういえば誕生日8月だって言ってた…


『アイツ大バカだから夏休みになって日にちの感覚ないみたい。今晩0時回ったら誕生日なの、絶対気付いてないよ。それに誕生日会なんてしたことないからね♪』

と夕陽の返事は聞かずに厨房を出ていってしまった。

夕陽がケーキを作る事は自ずと決定したらしい。


どれだけやり合っても、悪態ついても、お互い好き勝手しても、これが自然体。本当はこうして思い合ってる。大斗と咲さんはそんな2人なんだ…うらやましいな。


『夕陽ちゃん、今日はありがとう』

マスターは手を止めて笑いかける。


あなたの笑顔は最高です♪


『おーいバカー?!ゲーセン行こう?!あたしクッション欲しいの♪今日は取れる気がする♪』

『俺の名前はバカじゃねぇっいい加減覚えろっ!』

『あらぁ?知らなかったぁ大斗と書いてバカと読むんじゃなかったんだぁ?』

大斗と咲はギャアギャア言いながら店を出ていった。


『慌ただしい人達…』

夕陽がポロッと言ったことにマスターはクスクス笑いながら、

『あの2人は勝手で強引だからね、夕陽ちゃん迷惑してないかい?』

優しく聞いてくる。

『迷惑…してないって言ったら嘘だけど、あ。大斗に関してですけど。でも楽しいです、あの2人見てると』


マスターは「それは良かった。安心したよ」と微笑む。


『こないだ夕陽ちゃん達が浴衣で来ていただろう?昔、この場に似つかわしくなく和服で来ていた人がいてね、思い出したよ。何故だか彼女の着る着物は此所に馴染んでいてね…』

マスターは懐かしむように呟いた。


あ…もしかして…


『それって、雪那さん?』


驚いた様子でマスターは夕陽の顔を見る。

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