だって好きなんだもん!(Melty Kiss バレンタインver.)
一瞬、お兄ちゃんが歩みを止めた。
鳶色の瞳が優しくわたしを見下ろす。

「転校生は居ないって言いませんでした?」

「だって、先生は転校生なんかじゃないもんっ。転校生っていうのは、児童のことでしょう?」

「……まぁ、そうですよね」

意味ありげな言葉の濁し方が、ほんの一瞬気になった。

お兄ちゃんは馴れた足取りで自分の部屋にわたしを連れて行く。
そっと、壊れ物でも置くかのように、ベッドの上に座らされた。
床に学生カバンが放り投げてあるし、それに服だってここでは珍しい制服のまま。

そんな一つ一つで、どれほど心配してくれてたかが言葉以上に伝わってきて胸が苦しくなる。

でも、だって。
誰かに迷惑をかけたかったわけじゃなくて。

ただ、ちょっと、黒板に相合傘なんて書かれて冷やかされたのがショックでその場に居られなかっただけなのに。

気になる子供たちを見つけたから、放っておけなかっただけなのに。

わたしは、どこで何を間違えたのかしら……。
後悔の気持ちが、波紋のように心の奥に広がって、それはコーヒーの粉を間違えて噛んでしまったような苦さとじゃりっとした居心地の悪さを、わたしに容赦なく突きつけている。


「先にシャワー浴びてきますか?」

壁にすられて、白くなったり、血が滲んでいる両手の甲を、高級な宝石でも見つめるように丁寧に観察してからお兄ちゃんが聞く。
落ち着いたら、確かに。
手の甲からひりひりとした痛みがこみあげてくる。
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