月の雫[七福神大戦録]

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今は使われていない、廃墟の一角。

ベッドに横たわる弁財天の横に座り、寿老人は組んだ手に頭を垂れる。


『無茶をするからだ……』


寿老人は小さく呟く。

弁財天が人知れず出て行くのを、たまたま目撃した彼は後をつけていた。

きっと、奴の所に行くのだろうと。

弁財天の気持ちには、ずっと気付いていた。
大黒天に……奴に、特別な感情を抱いている事を。

そしてまた、奴が弁財天を一人の女として、見ていない事も、彼は知っていたのだ。

2人は、幼い頃からずっと一緒だったのだから、惹き合う事も自然な流れだ。無理もない。だが、大黒天には、その延長線上にしか、すぎないのだろう。


それなのに何故、ああまでして大黒天を欲する?


『見ていて辛いのだ。私なら、お前にこんな思いはさせない。どうして……どうして、私の想いは届かない……』


彼の、悲痛な叫びは、相手に届かぬまま宙をさ迷い、消える。


寿老人の悲しげな背中を、毘沙門天(ビシャモンテン)は、ただ静かに見つめ、たたずんでいた。







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