遠恋
遠恋
寒い日だった。
人肌が恋しくなるくらい寒くて、凍えてしまうくらい冷たい――そんな日の夜。

僕は彼女と公園にいた。
息が白くて、ここの空気は汚いんだなあ、とまるで見当違いのことを思っていた。


「…あたし、引っ越すの」

彼女は涙を堪えながら、鼻の頭を真っ赤にして、僕にむかってそっと呟く。
彼女を抱きしめることができなかった。
僕には、すがるように見つめてくる彼女に、そっと首を横に振ることしかできない。

一緒にいられないなら
寂しさを抱かせることはしたくないから。

だから、抱きしめたいとは、思えなかった。
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