愛しい遺書
「人の修羅場見てるなんて趣味ワル」

訪問者の正体は明生。

明生は隣の部屋に住んでる。

この偶然が明生とあたしを繋げた事のはじまり。あたしの部屋のスペアキーを持っている明生は、自由に出入りしている。

「あんなトコでモメてる方が悪いよ」

あたしは態勢も変えず、目も開けずに言った。

「オレだってあそこでああなるとは思わなかったし。メシ食いに行こうって言われて会ったのに、その前に海行きたいって言われてよ。行ったらああだろ?メシ食い損ねた」

「何も食べてないの?」

「お前が帰って来たら何か作ってもらおうと思ってたけど、来ねえから酒飲んで寝た」

「……電話くれればよかったのに」

「それはできねぇよ。マナカにワリぃだろ。ただでも嫌われてんのに」

あたしは笑って返した。

「なあ、オレの分のマックねぇの?」

「……見てたの?」

「別に張ってたワケじゃねぇよ?腹減って目ぇ覚めて、外見たらたまたま目撃したってわけ」

「全部食べちゃったよ……」

そう言うと明生はあたしの髪の毛に鼻を潜らせるように顔をくっつけ「イジワル」と可愛らしく言った。

あたしの胸は愛しさがこみ上げて来てキュンとなった。

「あの男、彼氏?」

「……違うよ」

「彼氏じゃねぇのに家に入れて」

「明生に言われたくない」

「アハハ。そりゃそうだ」

少し沈黙が続いた。

「アイツはやめとけ」

「なんでそんな事言うの?」

「なんでも」

「……ワケわかんないよ」

「まあ、人の事言えねぇか。オレもマナカに言われてんだろ?明生はやめとけ……みたいな?」

「誰といようと全部あたしの意志だから。流される事だけはない」

「……お前、オレに似てきたな」

「冗談やめてよ」

「アハハ。……マジお前だけはオレみたいになるなよ」

「………」

「幸せになれよ」

アンタがしてちょうだいよ。

あたしはその言葉が腹の底から押し出されそうになるのを必死で堪えた。

昨日の女みたいにはなりたくない。

「……そういえば、明生と一緒にいたあの女の人、あたしの肩おもいっきりどついた後すごい顔で睨んでた」

そう言うと明生は爆笑した。
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